朝、ピンと緊張感のある張り詰めた空気が漂う部屋。ドスッと体がぶつかり合う重い音が響き、その肌からは白い湯気が立ち上がる。
ここは、つくばみらい市にある「立浪部屋」の稽古部屋。午前9時、所属する力士たちの朝稽古を見学しにやってきました。
人生で初めて力士を街で見かけたのは、まだ小学生の頃。都内のホームで電車を待つそのどっしりとした佇まいに、どこか別世界の人かのような神々しささえ覚えたもの。あれからうん十年…。時を経て、こんな間近で見られる機会が来るとは。
静けさに満ちた空気の中で、体だけではなく信念のような何かがぶつかりあうその迫力に、テレビで目にする本場所とはひと味違った魅力を肌で感じることができました。
「立浪部屋」には、現在15名の力士(内1名は練習生)が所属。その内、2017年1月場所で新十両に昇進した力真(りきしん)や前場所で関取となった明生(めいせい)など、師匠・立浪耐治さんの指導の下で若手力士たちが着実に育っています。
全国各地に点在する40以上の相撲部屋の内、茨城県にあるのは立浪部屋を含めて2部屋のみ。元々は東京・両国に部屋を構えていましたが、伸び伸びと暮らせる環境や都内からの交通の利便性を考慮して2007年にこの地へ移転してきました。
部屋の2階からは名峰筑波山、好天時には日光連山や富士山を望む光景が広がっています。巡業から帰り、自然と共存した美しい街並みを眺めると心癒やされることも多いという。
“この街に住んでいて、良かった”
そんな気持ちと共に、移り住んだ街が新たな故郷となっていくのかもしれませんね。
約10年前といえば、つくばエクスプレス(TX)開通から2年ほど。TXみらい平駅から徒歩5分の立地にある立浪部屋ですが、当時はまだお店や住宅などもまばらで、相撲部屋という存在に馴染みが薄い住民も多かったそう。その後、街の発展に伴い子育て世帯の移住も大幅に増え、地域の保育園や幼稚園、小学校へ出向いて行う出張相撲部屋、豆まきや餅つきなどの恒例行事なども積極的に行い、市民たちとも交流を深めていきました。
朝稽古は、事前に申し込みをすれば見学が可能。私が訪れた朝は、既に十数名の方が見学していました。
間近で見る力士たちの取り組みに見る側も背筋が伸びる思いですが、力士たち自身も見られることで身が引き締まるのだそう。応援する者とされる者。それぞれが支え合う良好な関係が10年という月日の中で築かれているようでした。
技術だけでなく、人間性をも育む指導が部屋の方針の一つ。
「技を磨くことはもちろんだけど、誰にも礼儀正しく誠実で、人々から愛される人徳ある力士を目指して欲しい」言葉少なに語るその様子は潔く、部屋の歴史を背負って立つ者の風格をまとっていました。
春からは新弟子が4人増え、その中には15歳の弟子も加わる立浪部屋を陰で支えるのは女将の美紗子さん。
「同じ年代の子たちの生活と比較したら、共同生活や稽古は容易いものではない。だからこそ、みんなが笑顔になれる環境作りに努めていきたい。頼りがいのある兄弟子たちに助けてもらいながら、私もまだまだ勉強の途中です」謙虚に微笑むその眼差しは力強く、厳しい世界に挑む力士たちの明るい未来を見据えているようでした。
立浪部屋から歩いてすぐの場所には、大型スーパーがある。
「あ。お母さん、お相撲さんもここに来てたんだね」
力士たちがつける、鬢付(びんつ)け油の香りが鼻をかすめた子どもがこんなことを話していたそう。
同じ街に、国技を継承する相撲部屋があるという暮らし。日々稽古に励む力士たちの姿は、子どもたちに大きな夢を与え続けてくれることでしょう♪
現在、相撲界は三月場所の真っ最中。立浪部屋の力士たちへの応援に熱が入るみっきぃでしたᕕ( ᐛ)ᕗ
【立浪部屋】
茨城県つくばみらい市陽光台4-3-4
※見学希望は、ホームページからお問い合わせください